[1] 大学の理念

学校法人金沢工業大学 理事長泉屋 吉郎

本学園の使命

 日本の学校教育法は「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。」「高等専門学校は、深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成することを目的とする。」と述べています。
 また、アメリカの故ケネディ大統領は、1963年6月10日アメリカン大学の卒業式において『平和の戦略』と題する演説を行いましたが、この演説はあの有名なリンカーン大統領の『ゲチスバーク演説』に比すべき歴史的名演説といわれています。彼はその中で、「この地上にあるもので大学ほど美しいものはないであろう。大学は無知を憎む人々が知ることに努め、真理を知っている人々が、他の人々の眼を開かせようと努める場であるからである。」
と、彼らしい格調の高い言葉を引用して大学の使命を語っています。
 これら二つの表現において、学校教育法は学理的に、ケネディ大統領は高踏的に、それぞれ大学の使命を定義づけています。たしかに、大学は学術の中心であって、常に高度の教育実践と斬新な研究活動を行い、日本及び世界学術の進歩と国際文化の向上に寄与することを使命とし、高等専門学校は、産業日本の発展を担う優秀な技術者を育成することを使命としているのであります。

教育原理の焦点

 さらに、一般的教育とは、哲学者フィヒテの唱えるように、人間自身を形成することであり、人間を彼自身たらしめることであります。また、教育学者ナトルプのいうように人格を陶冶することであります。陶冶とは個人の完全なる形成を意味します。
 それゆえ、学園の使命を具体的に挙げれば、人間形成、学術探究及び職業教育の三つの項目を数えることができます。この三つの項目は、いずれも重要な意義を持っていますが、窮極においては、人間形成に重点を置いているのであります。要するに、学術研究、職業教育によっても人間形成は可能ではありますが、人間形成を除外して、学術探究も職業教育もありえないのであります。したがって、使命の本質は、最高の知能と深奥な教養のある指導的人間の育成の場であると断言してよいと思うのであります。
 このように、学園を人間形成の場として重視すれば、学生生活はただ単に教室、実験室及び図書館にのみあるのではなくて、その文化活動、体育奨励、寮生活の指導、厚生施設、衛生管理、生活相談及び就職斡旋などあらゆる部門、すなわち常住坐臥そのものが重要な意義を持つことになります。

学園共同体の倫理

 以上の観点に立てば、人間形成ということは、官学たると私学たるとを問わず、およそ共通の最大の使命でありますが、特に私学においては、教育の担当者は、ひとり教授のみならず、広く理事者及び職員をも含むべきことを理解せねばなりません。したがって、本学園においては学生?理事?教職員一体の学園共同体を築き上げることによって、真に人間形成の場となし、民主主義日本の期待する人間像の生まれ出る温床とすべきであります。
 しかも、私学は官学に比較して、私立学校法によって一定の基準を守り、監督を受けねばならないとしても、複雑な法的規制や煩瑣な官僚統制を免れて、はるかに自由な立場にあります。戦前においては、私学に対する当局の監督統制は、今日よりは、はるかに厳格を極めていましたが、それにもかかわらず、私学は、それぞれ独自の伝統と堅実な学風を育て上げたのであります。
 いずれの私学においても、その経営の企画と財政の確立のために多大の苦慮を払いながら、なおかつ香り高き矜持を失わないのは、実にこの自由の立場が存在するからであります。それゆえにこそ、本学園においては、技術時代に先駆する革新的な産学協同方策を高く旗標として掲げて、経営管理の最高責任者である理事会は、教育研究の直接担当者である教職員及び研学当事者である学生の全面的な協調を得て、その抱負経綸を実現するため、私学の特長を遺憾なく発揮して縦横自在な活動を行い、高邁な学風を築かんとするものであります。
 見られよ。古き校史に彩られた私学の中には、その創設者の人格と識見によって建立され、長き歳月と烈しい風雪に耐えて鍛え上げられ、独自の伝統と質実な学風を誇っているものが数多く存在しているのであります。例えば早稲田大学における大隈精神、慶応義塾大学における福澤精神、また、同志社大学における新島精神のごときであります。本学園においても、ここに述べる建学綱領を基盤として日本の学界に垂範する崇敬に値する風格を樹立せねばなりません。

われらの行く栄光の道

 戦後におけるわが日本の経済的発展は、敗戦というおなじ運命を辿りともに復興の道を進んだ西ドイツの奇蹟的発展を、はるかに凌駕する神秘的発展を遂げたのであります。この偉大な成果は日本人の知能と技術と勤勉の総合的所産であります。
 いまや、本学園はこの偉大な民族的栄光をバックボーンとして、郷土石川県、北陸三県、中部圏及び日本海沿岸地区の地域開発のための学術的母体と技術的基地の主役を演ずるとともに、さらに世界市場に挑戦する産業日本の要求する最優秀な技術者と最上級の経営者を養成すべき重責を双肩に担っているのであります。
 進んで将来は、現代アメリカの科学技術の聖地ともいうべきマサチューセッツ工科大学の運営方針に学んで、日本の宇宙開発より産業社会学に至るまで、最高水準を誇る第一流の学園たらしめんとする大志を実現して、民主主義日本の学界に偉大な栄光を捧げんとするものであります。われわれは、この国家的至上使命を遂行するために本学園のあらゆる機能を結集して、その共同的総力を挙げて精進する決意を持たなければなりません。

三大建学旗標

 金沢工業大学及び国際高等専門学校は、学生、理事、教職員が三位一体となり、学園共同体の理想とする工学アカデミアを形成し、学園創設理事である泉屋利吉翁が定めた三大建学旗標の具現化を目的とする卓越した教育と研究を実践し社会に貢献します。

高邁な人間形成 我が国の文化を探究し、高い道徳心と広い国際感覚を有する創造的で個性豊かな技術者?研究者を育成します。
深遠な技術革新 我が国の技術革新に寄与するとともに、将来の科学技術振興に柔軟に対応する技術者?研究者を育成します。
雄大な産学協同 我が国の産業界が求めるテーマを積極的に追究し、広く開かれた学園として地域社会に貢献します。

学園の学章

 この学章は、本学のシンボルであるゴールデンイーグル(いぬ鷲)の翼をモチーフに、三大建学旗標
●高邁な人間形成  ●深遠な技術革新  ●雄大な産学協同
三位一体の学園共同体
●学生  ●理事  ●教職員
科学技術を学ぶ者への指針を示す、3つの"T"
●Truth=真理  ●Theory=理論  ●Technology=科学技術
を表現したものです。
 白山に棲息する天然記念物ゴールデンイーグルは、光に向かって進むとき頭部が金色に輝く特徴を持っており、鳥類の中では最も高空を飛翔する勇敢な鳥と言われます。そのゴールデンイーグルの力強いイメージの中に、勇気と信念を象徴しています。

校歌

加越山脈越えて吹く緑かがやく朝風に
こぶしの花は咲きかおり若き心に夢を呼ぶ
扇が丘の学園は
祖国日本をにないゆく
白嶺おろしにきたえたる
鉄の腕よこの胸よ
真理と技の蘊奥を
求めて常に新しく
扇が丘の学園は
工業日本をきずきゆく
越の海辺を船出して
七つの海を越えて行く
産学共に協同の
輝く成果我にあり
扇が丘の学園は
世界の幸をひらきゆく

学園共同体の理想

 学園創設者の泉屋利吉翁は、学生?理事?教職員の三位一体で構成する学園共同体の理想を掲げ「工学アカデミア」の建設に全力を傾けました。学園創設期においては、学生を“Young gentlemen”と呼び、彼らの自律と自主的な活動を支援し、自由と活気ある学園の樹立に心がけました。特に、直接、その設立を企画した穴水湾自然学苑は、豊かな自然の中で教職員と学生が寝食を共にし、規律ある共同生活を送ることにより、お互いの信頼関係の構築と学園共同体の理想を実現せんとするものでありました。傍ら、教職員の資質向上を図るため、教職員の学内外への留学制度を構築し、全ての教職員に教育者としての自覚を強く求めました。
 初代校長?学長の青山兵吉先生は“Truth(真理)”“Theory(理論)”“Technology(技術)”を当時の学園の記章に三つの“T”として込められ、学園を「知を求める場」「知を生産する場」とされ、本学園卒業生が我が国産業界において指導的役割を担う技術者?研究者として活躍することを強く念じ、また信じておられました。学術に生きる青山兵吉先生の純粋で崇高な願いと言動は、当時の教職員には忘れ難いものがあります。
 第2代大学学長の京藤睦重先生は、学生の学力や資質を直視され、 多年にわたる教育者としての信念に基づき、学園共同体の理想を「親切な学園である」との言葉に込められ、 学生との信頼関係を構築する軸として、基礎学力の向上を目的とする徹底した教育訓練を展開されました。 特に、「努力すれば、必ず報われる」と学生に熱く語りかけておられた姿や「誠意をもって学生に対応すれば、学生は必ず応えてくれる」と自ら率先して学生と向き合う活力ある行動は、教職員を励ますのみならず、学外の多くの方々から支持されました。
 私は?“KIT-IDEALS”を標榜するにあたり、学園が組織として重視すべき価値と位置づけた
?Kindness of Heart(思いやりの心)は、京藤睦重先生の教育者としての学生を思う心を
?Intellectual Curiosity(知的好奇心)は、青山兵吉先生の学者としての純粋な崇高さを
?Team Spiri(t 共同と共創の精神)は、泉屋利吉翁の学園共同体の理想を追究する闘志に満ちた活動を
それぞれ想起し定めたものであります。
 また、学園を構成する(学生、理事、教職員)個々人が重視すべき価値として位置づけた
?Integrity(誠実)
? Diligence(勤勉)
? Energy(活力)
? Autonomy(自律)
?Leadership(リーダーシップ)
? Self-Realization(自己実現)
は、創設者を始めとして、歴代の学長?校長が話されたり、学生を諭された言葉の数々から、その思いを要約させていただいたものであります。
 学園を構成する人々(学生、理事、教職員)が生涯にわたる「行動」を通して自己実現を目指され、学園共同体の理想実現に寄与されますことを念願するものであります。